放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会(委員長・坂井真弁護士)が16日に、今年2月17日にフジテレビ系で放送されたバラエティ番組『カスペ!「あなたの知るかもしれない世界6」』が審理入りしたことを明らかにしました。
審議を申し立てたのは、自転車にはねられ亡くなった東令子さん(当時75歳)の息子で会社員の東光宏さん(44)と、東さんが所属する「関東交通犯罪遺族の会」で、事実と大きく異る内容で名誉を傷つけ、「誤解を与えかねない」と人権侵害を今年7月に申し立てていました。
問題となったのは、「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という自転車事故を扱ったコーナーでの冒頭で、東さんが受けたインタビューが流された後に、自転車事故で小学生にケガを負わせた14歳の少年と家族を描いた再現ドラマを放送。
しかし、この小学生は賠償金を目当てにして意図的に自転車にぶつかってきた「当たり屋」だったという結末となっており、東さんは申立書で「取材に当たり、当たり屋がメーンで登場することについて全く説明がなかった」と主張し、「『(男性も)賠償金目当てで文句を言い続けており、当たり屋と似たようなものだ』との誤解を視聴者に与えかねない。私の名誉ないし信用、犯罪被害者としての尊厳が害された」と訴えました。
番組のコンセプトが「事実のみで構成されたドラマ」「実話の物語をドラマ化した『最大公約数ストーリー』」としながらも、賠償額などの裏付け取材が無く、番組が製作されていることも含めてフジテレビ側に謝罪を求めていました。
この訴えに対してフジテレビ側は、番組の担当者が東さんに台本の提供を申し入れたものの、断られたために「説明するタイミングを失った」と釈明。
また、「再現ドラマと、申立人の母親が被害者となった事件に関連性はない」と訴え、「自転車事故の悲惨さを実例で示し、視聴者の問題意識を高めた上で再現ドラマに入り込んでいくこと」が目的だったと主張しています。
ちなみに、フジテレビ広報部は7月に申し立てを受けた際に、「当該番組の当該コーナーは近年、増え続ける自転車事故の深刻さを伝えようと企画し放送しました。この放送内容で東光宏氏並びに関東交通犯罪遺族の会の皆様が、不快な思いをされたことに対しては、申し訳ないと思い誠意をもって対応を続けて参りました。しかしながら、当該番組は複数の取材や専門家の監修に基づき制作しており、虚偽放送にあたるものではないと考えております。会見内容は弊社の認識とは大きな違いがあり、非常に残念に思います。BPOに申し立てされたということですので現段階では詳細については回答を差し控えさせていただきます」とコメントをしていました。
これに対してネット上では、
- これクローズアップ現代と同じ手法だな。最初に話してた内容と違う話題でインタビューが使われる。どこのテレビ局も同じようなことやってるんだな
- フジはもうダメだね。テレビ離れの大きな一因かもしれない
- フジは何をやってもダメだなぁ。裏目裏目でもう表が無い状態だぞ。
- フジテレビはいつもBPOにお世話になってもらっているので別に驚かないわ
- 事故の内容どうのと言うよりフジテレビの報道バラエティーの制作には違和感や不信感を感じる。単なるドラマやバラエティーならいいが、報道や再現を名のったり語るならキチンと取材した内容にしてほしい。作ったらそれっきり間違ってもそれっきり、もう少し真面目に番組作りに取り組んで欲しい
などのコメントが寄せられていました。
この事故は2010年1月に発生したもので、今年3月にニュースサイト『読売新聞(YOMIURI ONLINE)』が報じていた記事によると、東さんの母親・令子さんさんは歩いて買い物に出かけ、横断歩道の信号が青になったことから渡り始めた時に、右から信号を無視してスポーツタイプの自転車(ロードバイク)にはねられ、令子さんは転倒して道路に激しく頭を打ち付け、病院に搬送されましたが、その後一度も目を開けないまま、5日後に亡くなったとのことです。
加害者は40代の男性で趣味のサイクリング中だったそうで、乗っていたのはサドルよりもハンドルの一が低く、やや前傾姿勢で運転するタイプのロードバイクでした。
重過失致死罪で起訴された男性側は公判で脇見運転を指摘されると、「自転車の構造上、下向きになり、ヘルメットもかぶっていたので、信号が見えにくかった」と反論していたそうで、それに東さんは憤りを抑えられず、被害者参加制度を使って法廷に立ち、「永遠に親孝行ができなくなってしまった。(事故を)一瞬一秒でも忘れることは許さない」と実刑を求めたものの、判決は禁錮2年、執行猶予3年で確定。
東さんはこの事故によって多くのものを失い、心に大きな傷を負ったにもかかわらず、フジテレビはなぜか東さんのインタビューを「当たり屋」による自転車事故の再現ドラマで流すというのは極めて悪質であるため、フジテレビ側はしっかりと東さんに謝罪をするとともに、今後二度とこのような誤解を与えるような番組を制作しないようにしてほしいものですね。