フィギュアスケート女子シングルのショートプログラム(SP)が15日に行われ、昨年12月のドーピング問題を巡って大騒動になっているロシア代表のカミラ・ワリエワ選手(15)が、「82.16点」を獲得して首位スタートを切ったものの、出場選手からも「完全に不公平」といった批判が噴出するなど物議を醸しています。
カミラ・ワリエワ選手は昨年12月に出場した『ロシア選手権』でドーピング検査を受け、その検体から狭心症や心筋梗塞などの治療に使用される薬物「トリメタジジン」が検出され、この成分は心肺機能を高める効果等があり、禁止薬物に指定されていることから、この結果が判明した2月8日に『ロシア反ドーピング機関(RUSADA)』が暫定的な資格停止処分を下しました。
これを不服としたカミラ・ワリエワ選手は処分取り消しを求め、すぐに処分解除が決定、この対応を『国際オリンピック委員会(IOC)』『世界反ドーピング機関(WADA)』『国際スケート連盟(ISU)』が不服として、『スポーツ仲裁裁判所(CAS)』に提訴しましたが、CASは14日に、ワリエワ選手は規定で要保護者であることや、昨年12月のドーピング検査が原因で、資格停止とすることは選手に害をもたらすとし、訴えを棄却しました。
<↓の画像は、カミラ・ワリエワ選手のドーピング問題を巡る15日までの経緯>
カミラ・ワリエワ選手はIOCによる聴取に対して、体内から「トリメタジジン」が検出された原因について、祖父が心臓の治療薬として服用していて、そのクスリが誤って体内に入ってしまったことで陽性反応が出たと主張しており、ワリエワ選手の母親や弁護士は「ワリエワの祖父が服用している心臓の薬に禁止薬物の成分が入っており、祖父と同じグラスを使ったことが要因」だと語っています。
なお、薬物分析の専門家はこの主張に対して、「一般的に、薬を服用している人が使ったグラスを共有した程度では、陽性と判断する基準値には達しない」
とも語っています。
他にも、アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』はカミラ・ワリエワ選手の体内からはトリメタジジン以外にも、禁止薬物には指定されていない心臓病の治療薬「ハイポクセン」や「L-カルニチン」も検出され、これらはCASの聴聞会に提出された資料に記されていたとのことです。
同紙は、心臓の働きを向上させる成分が同時に3つも検出されるのは不自然とし、「この組み合わせによって、持久力を高め、疲労を軽減し、酸素の使用効率を促進することを目的とした可能性がある」「高いレベルのフィギュアスケート選手に大きな競争上の優位性をもたらす可能性がある」
と指摘しています。
IOCの懲罰委員会でトップを務めている幹部のデニス・オズワルドさんは、カミラ・ワリエワ選手を巡るドーピング問題について、「15歳が1人で違反行為をすることはないだろう」と語っているのですが、ロシア内ではコーチのエテリ・トゥトベリーゼさんに疑いの目が向けられています。
<↓の画像は、カミラ・ワリエワ選手とエテリ・トゥトベリーゼコーチの写真>
エテリ・トゥトベリーゼさんは、カミラ・ワリエワ選手の他にもショートプログラムで2位になったアンナ・シェルバコワ選手(17)も指導していて、過去に金メダルを獲得したユリア・リプニツカヤさん(23)、アリーナ・ザギトワ選手(19)、銀メダルを獲得したエフゲニア・メドベージェワ選手(22)など、多くのトップアスリートを指導した名コーチとして知られており、選手に有無を言わさない厳しい指導から“氷の女王”の異名を取ります。
そんなエテリ・トゥトベリーゼさんが、カミラ・ワリエワ選手が試合前に摂取した物を知らないとは考えづらいと現地メディアは報じているほか、代表選手に同行している医師のフィリップ・シュベツキーさんの関与も疑われています。
フィリップ・シュベツキー医師は、2007~2010年にかけてドーピング違反問題で資格停止処分を受けている曰く付きの人物で、カミラ・ワリエワ選手に付き添う姿なども確認されています。
<↓の画像が、ロシアフィギュアスケートチームのフィリップ・シュベツキー医師の写真>
現時点ではまだ真相は明らかになっていませんが、ロシア反ドーピング機関の元所長であり、これまでに内部の不正告発を行ってきたグレゴリー・ロチェンコフさんは海外メディアの取材に対して、「トリメタジジンの摂取は日常的だった」と語ったとしています。
このようにカミラ・ワリエワ選手のドーピング違反を巡って様々な情報、憶測が飛び交っている状況の中で、ワリエワ選手は15日に行われたショートプログラムに出場、高得点を獲得して1位通過を果たしたのですが、中国代表でショートプログラム27位だった朱易選手(ジュ・イー 19歳)は、「他の競技者にとっては完全に不公平だと思う。他の選手はみんな、クリーンなのに、彼女が陽性と判定されたのは事実だ」
と批判しています。
アメリカ代表でショートプログラム8位のアリサ・リュウ選手は、「ちょっと変。確かな意見を言えるほど詳しいことは知らないけど、ドーピングをした選手がクリーンな選手と競争するのは明らかにフェアではない」
と訴え、選手の間でも物議を醸しているとしています。
この他にも、金メダリストのキム・ヨナさん(31)がインスタグラムに、「ドーピング違反をした選手は試合には出場できません。この原則は例外なく順守されるべき。全ての選手の努力と夢は等しく尊いものです」
と綴り、この投稿に対してケガで五輪出場を逃した紀平梨花選手(19)も「いいね!」をするなど、多くの賛同を得ています。
このように複数のフィギュアスケート関係者からも裁定に対する疑問、批判の声が上がっているのですが、カミラ・ワリエワ選手のドーピング問題に対してネット上では、
- 若かろうが、自分の体を自分で管理できてこそ、オリンピック選手なんじゃないのかね。
なんかしらないけど、うっかりおじいちゃんの薬が体に入っちゃいましたー、じゃダメでしょ。 - これまでの経緯からすれば、この2人を競技から永久追放しても厳し過ぎるとは思えないし、ROCの選手全体に検査強化等のペナルティがないと公平性が保てない。
- 気の毒だけど出場資格の停止が妥当。そうじゃないと過去にドーピング違反で処分を受けたアスリートとの整合性が取れない
- 今回、ロシアオリンピック委員会で出場させて下さいという立場なのに、何という不始末。個人を守らなきゃ。
ロシアは個人の名誉を守るためにも、しばらくオリンピック参加は認めてはいけない。出場しなければ、個人が責められることはない。 - 今回のオリンピックめちゃくちゃだね。公平さに欠けてるのが多すぎだし、後味悪いのが多すぎ。
ロシアがドーピング問題で国として出れてない中でのドーピング問題なんだから、一層厳しく対処するべきなのでは?と思うけど、お金が絡んでるからそう簡単には行かないんでしょうね。
中国とIOCの懐を温かくするための大会に、選手たちが使われて可哀想。 - 本人が知りませんでしたで済む問題じゃないだろ。ドーピング使用したのが事実なら理由はどうあれメダル剥奪&出場停止にすべき!
あまりにも公平性に欠けるし他の選手達も納得いかないだろう。より一層規制を強化する必要がある
などの声が上がっています。
カミラ・ワリエワ選手サイドは頑なに意図的なドーピング行為は認めず、祖父のクスリを誤って体内に取り込んでしまったという、かなり苦しい言い訳をしていることでも波紋を広げていますが、体内から禁止されている薬物が検出されたのは事実で、本来であれば出場資格停止処分が下されるにも関わらず、年齢や陽性が判明したタイミングなどを理由に大会に出場するのは問題ありでしょう。
カミラ・ワリエワ選手のドーピング問題によって、違反発覚前に行われたフィギュアスケート団体戦のメダル授与式は急遽中止、延期が決定し、さらにシングルへの場も許可したことで、もしワリエワ選手が3位以内に入った場合には、メダル授与式を行わないとIOCが決定しています。
こうした様々な影響も出ており、何よりも公平性に欠けているというのは大きな問題ですし、やはりカミラ・ワリエワ選手の出場を認めるべきではなかったと思いますね。
カミラ・ワリエワ選手も、疑いの目が向けられている中でもしこのまま1位になったとしても、祝福よりも多くの批判等が寄せられて辛い思いをするでしょうし、正に最悪の展開を迎えていると言えますが、17日に行われるフリーでどのような結果になるのか注目したいところです。