1990年代に「グランジ」というオルタナティブ・ロックの新たなジャンルを確立し、ファッションシーンにも大きな影響を与えたアメリカのバンド『NIRVANA(ニルヴァーナ)』の人気を不動のものにした、世界的に有名な2ndアルバム『NEVERMIND』のジャケット写真に起用された男性が、「商業的かつ性的に搾取された」としてバンドメンバー等を提訴したことが判明し大きな話題になっています。
ニルヴァーナのメンバーらを提訴したのは、スペンサー・エルデンさん(Spencer Elden 30歳)で、生後4ヶ月だった1991年にプールの中で裸で泳ぐ姿を撮影され、そこに釣り針にかかった1ドル札の写真を合成したものがジャケットに起用されました。
<↓の画像が、ニルヴァーナのアルバム『NEVERMIND』ジャケット写真>
当サイトで一部加工しています
このアルバムはその後、アメリカのビルボードチャートで1位を獲得、その年のベストアルバムに選出され、世界中で3,000万枚以上もの売り上げを記録し、昨年発表された『ローリングストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500』では、6位に選出されるほどロックシーンでは非常に高い評価を受けており、史上最高のアルバムの1つとされています。
この大ヒットによってこのアルバムジャケットも世界的に有名な1枚となり、この写真がプリントされたTシャツなどが数多く出回っており、ニルヴァーナを全く知らない人でも、この写真は見たことがあるという人は多いかと思います。
そして、当時生後4ヶ月だったスペンサー・エルデンさんも今年で30歳となり、アート制作活動などを行っているようなのですが、性的搾取などを理由にメンバーらを提訴したことが明らかになりました。
裁判所に提出された資料によれば、スペンサー・エルデンさんは撮影当時4ヶ月で、アルバムのジャケットに使用されることに承諾することは不可能だったことに加えて、両親も写真使用を許可する文書に署名はしていなかったといい、「商業的児童ポルノの許可も無かった」と指摘し、被写体となったエルデンさんは報酬を一度も受け取っていないとも主張しています。
また、ニルヴァーナ側は下半身部分をシールで隠すと過去に約束したにも関わらず、対応しなかったとも訴えています。
ちなみに、アメリカでは性的では無い乳児の写真については、児童ポルノとは通常見なされないそうですが、弁護人は問題の写真について、「1ドル札があることで、乳児が性労働者のように見える」と主張しています。
スペンサー・エルデンさんが提訴したのは、ニルヴァーナでベース担当だったクリス・ノヴォセリックさん(56)、ドラム担当のデイヴ・グロールさん(52)のほか、ボーカル&ギター担当の故カート・コバーンさんの妻や資産管理人、写真撮影をしたカーク・ウェドルさん、その他にレコード会社関係者ら計15名となっています。
スペンサー・エルデンさんは関係者15名を相手取り、「極度かつ永続的な精神的苦痛」や「生涯にわたる収入獲得能力の喪失」などの被害を受けた等として、それぞれに対して15万ドル(約1,650万円)の損害賠償を求めています。
なお、現時点でニルヴァーナのメンバーやレコード会社側はこの件についてコメントを出していません。
そして、ニルヴァーナのアルバムジャケット写真を巡る裁判沙汰に対してネット上では、
- 当時報酬受け取ってるのに?2008年に再現もしてるのに?なんでいま?ハテナがいっぱい!
- そのジャケ写を、自分で二度も再現してSNSにあげてるくせに、今になって性的搾取とかお笑い草も良いとこだけど、たちの悪い弁護士にそそのかされたか?
- 何年前だか忘れてしまったが、その時のインタビューではノリノリで「そうなんだよ。あの写真の赤ちゃんは僕だよ!」みたいな感じで話していましたけどね。
確か父親がニルバーナのスタッフの一人でたまたま連れてきた彼を記念に撮ったら気に入られて、アルバムジャケットに使われて、全てが偶然の産物だったんだとか話していたような…ま、金だな… - 突っ込みどころ満載だな、昔嬉しそうに再現してたし。アルバムジャケット通り、お金を掴みに行く赤子を30歳になって再現しているという事は、やはりニルヴァーナをリスペクトした行為なのかもしれない
- よくあるパターン。色んな訴訟見たり周りに唆されたりして「そんじゃダメ元でやってみるか!」と。そんで「いくらかでも取れればラッキー」くらいの感じかもしれない。
本人は意図してなかったとは言え、世界的ロックアルバムのアートワークになったんだし、それなりにいい思いもしてると思うが。 - そもそもコロナ禍で収入が無いから法的に穴だらけの過去の案件に訴えたようなもので、訴訟社会の米国らしいというか、司法制度で弁護士様がたくさんいらっしゃるお国柄なのかねえ。肖像権と写真構図等作品の権利はどちらが優先するってことかな。
などの声が上がっています。
問題の写真が撮影された経緯についてですが、カメラマンのカーク・ウェドルさんとスペンサー・エルデンさんの父親が友人関係だったことが縁で、エルデンさんをモデルに写真撮影を行い、そのギャラとして両親は200ドル(約2万2,000円)を受け取ったとされています。
この写真でバンドと共に有名人となったスペンサー・エルデンさんは、アルバム発売から10周年、20周年、25周年の節目に、このジャケットのオマージュ写真を撮影し、さらには自身の胸元に「NEVERMIND」のタトゥーも入れていて、このジャケット写真には好意的な印象を持っているとみられていました。
<↓の画像が、スペンサー・エルデンさんによるオマージュ写真とタトゥー>
しかし、2016年にアメリカの有名ニュース雑誌『TIME』のインタビュー取材を受けた際に、バンドのメンバーとはこれまで一度も会ったことがなく、過去に連絡を試みるも会うことが出来なかったといい、この写真使用による補償などが一切無いことに対して不満を抱き、レコード会社に対して法的措置を講じる検討をしていると明かしていました。
ただ、アルバムの写真自体は好きで、このコンセプトは天才的とも評していたので、結局のところは相応の報酬を貰えなかったことに不満を抱き、今になって性的搾取されたとして関係者等を訴えたように見えます。
アメリカで赤ちゃんの性的ではない写真は児童ポルノには見なされないそうですが、スペンサー・エルデンさんは精神的苦痛を味わったとのことで、これに対して裁判所はどのような判断をするのか注目したいですね。