日本テレビが昨年10月期に実写ドラマ化した漫画『セクシー田中さん』の作者・芦原妃名子さん(あしはら・ひなこ 本名=松本律子 享年50)が、29日に栃木県日光市の川治ダムで遺体で発見され、急死した原因が実写ドラマの脚本を巡るトラブルの可能性が高いと見られており、大きな波紋を広げています。
各報道によれば、28日16時ごろに芦原妃名子さんの仕事上の関係者から「行方が分からない」という趣旨の連絡があり、同19時ごろに職場関係者と知人が警視庁大崎警察署に行方不明届を提出、受理されました。
警視庁は、芦原妃名子さんが栃木に向かったとの情報を得て捜索を進めたところ川治ダムで遺体を発見し、近くにあった身分証から親族が本人と確認したといいます。
『セクシー田中さん』を掲載の『姉系プチコミック』を出版する『小学館』によれば、2月5日発売号をもって休載することが以前から決まっていたといい、作品は未完のまま終了となるそうです。
芦原妃名子さんは26日に、ブログやX(旧ツイッター)で昨年に実写ドラマ化された『セクシー田中さん』の脚本を巡って、制作サイドと脚本を巡って様々なトラブルが起きていたことを明かし、ドラマ化の条件としていた「漫画に忠実に」「原作者が用意したものは原則変更しない」といったことが守られずに大幅な改変や重要シーンの削除が勝手に行われ、原作漫画の締め切りに追われる中で脚本の加筆修正などを繰り返し行う形となり、心身ともに疲弊していたことを告白しました。
また、漫画を連載している『小学館』を通じてドラマのプロデューサーに対して、「私が描いた『セクシー田中さん』という作品の個性を消されてしまうなら、私はドラマ化を今からでもやめたいぐらいだ」と何度も訴えていたことも明かしていました。
こうした裏事情の告白が大きな波紋を広げ、ドラマの第1~8話までの脚本を担当した相沢友子さんが自身のインスタグラムで昨年12月に、「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました。」「私が脚本を書いたのは1~8話で、最終的に9・10話を書いたのは原作者です。誤解なきようお願いします。」「今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように。」
などと綴り、不満をあらわにしていたことを巡っても物議を醸し、炎上騒動に発展していました。
そうした中で、芦原妃名子さんが28日13時すぎにXを更新し、「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」とつぶやき、ブログを閉鎖してXへの投稿も削除しました。
その後、芦原妃名子さんは自宅に遺書のようなものを残して失踪し、川治ダムで遺体で発見されており、遺書の内容は明らかにされていないものの、『週刊文春』や『スポーツニッポン』などの報道によれば、数行で失踪した理由などが記されていたといいます。
そして、芦原妃名子さんの訃報を受けて日本テレビはドラマ『セクシー田中さん』の公式サイト上で、「芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。2023年10月期の日曜ドラマ『セクシー田中さん』につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら、脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております。」
とのコメントを発表し、保身を感じるこの内容を巡っても批判が殺到する事態となりました。
ネット上では、日本テレビだけでなく相沢友子さん等の言動に対する批判、誹謗中傷が相次ぎ、日本テレビは30日に局の公式サイトのトップページにコメントを掲載し、「芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。日本テレビとして、大変重く受け止めております。ドラマ『セクシー田中さん』は、日本テレビの責任において制作および放送を行ったもので、関係者個人へのSNS等での誹謗中傷などはやめていただくよう、切にお願い申し上げます。」
と、全ての責任は日本テレビにあるとして、脚本家等に対する誹謗中傷をやめるように呼び掛けました。
31日には、芦原妃名子さんの遺族が小学館を通じてコメントを発表し、「突然、最愛の家族を失い、私たちは茫然自失のただ中におります。取材のご依頼をいただいても、とてもお話できる状況にはありません。また、こうした状況下、見知らぬ方から声をかけられることに怖れを抱いております。どうぞ、今はそっとしておいていただき、静かに見守っていただければ幸いです。よろしくお願いします。」
としています。
しかし、現在もネット上では関係者等に対する誹謗中傷が相次いでいるほか、こうした痛ましい形で芦原妃名子さんが亡くなったことを受けて、『東京スポーツ』(東スポ)の記事では小学館関係者が、「出版社にとって作家さんは財産。その命が失われたわけですから、日テレには詳細な説明が求められる」「しっかり検証して再発防止に努めなければ作家さんだって安心できない。中には『小学館のコンテンツを引き揚げろ!』という過激な意見まで飛び出している」
と語っています。
なお、日本テレビ系で現在アニメを放送している小学館のコンテンツは、昨年9月から2クール連続で放送中の『葬送のフリーレン』、系列の読売テレビ等が制作する『名探偵コナン』などがあります。
<↓の画像は、日本テレビ系でアニメが放送中の『名探偵コナン』と『葬送のフリーレン』の写真>
東スポによれば、小学館関係者からも怒りの声が上がっているとのことで、これらの作品に今後影響を与える可能性もゼロではないようなのですが、これに対してネット上では、
- 原作物は全部 他局に移したほうがいい
- 思わぬ方向から飛び火したなぁ。でも、そこまでしないと何も変わらないのも事実。
- フリーレンは日テレでは観ない アマプラで観る というか、日テレはもう観ない DASHは毎週楽しみにしてたけどもういい
- 小学館は当然名探偵コナンを日テレから引き上げるくらいの事はしないと。自社の所属漫画家が自殺に追い込まれたんだから。日テレに鉄槌を下すべき。
- 引き上げていいと思う あの尊大な態度 テレビがコンテンツを失うと言うことの意味を知らない連中だからね 文句あるなら自分で作品をゼロから作れ
- 引き上げたら良いんだよ。制作関係者が日テレで居られなくなるくらいのダメージを与えて関係者個人を追い込むという見せしめをしない限り何も変わらない
- 芦原先生の件がコナンにまで波及しそうになってるの、なんだかな…コナンのアニメは青山先生の意思を最大限尊重してるように感じるけど
- 芦原先生を失ったことを受け、原作許諾に双方今後どう向き合うのか。命の受け止め方の正念場かも
などの声が上がっています。
日本テレビは、2022年10月期放送の清原果耶さん主演ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』の脚本を巡っても、原作者の小説家・相沢沙呼さんとの間でトラブルに発展しており、それによって当初予定していた脚本家が降板し、別の脚本家と相沢さんが脚本を書く形となっています。
さらにその前には、2008年4月期放送の蒼井優さん主演ドラマ『おせん』の脚本を巡り、原作者の漫画家・きくち正太さんと揉めていて、その影響なのかドラマが始まったタイミングで原作漫画が予告なしに突如休載となり、ドラマ放送後のインタビューでは「(作品を嫁に出して)幸せになれるものと思っていたら、それが実は身売りだった」と意味深に語っていました。
日本テレビだけでなく他局でも、原作がある作品のドラマ化等に際して、脚本の改変を巡って原作者と揉めることはよくあり、今期放送の同名漫画を実写化した『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』(テレビ朝日系)で、脚本を手掛けている鈴木おさむさんは31日放送のラジオ番組で、テレビ番組のプロデューサーについて「原作をパッと見あさって、愛を持ってやる人もいる」とした一方で、「この設定だけでいいやとか、雰囲気だけもらえればいいやとか。ゼロイチの部分を自分で考えずして、なんとなく漫画に頼って、入り口だけ撮ればいいやって思うプロデューサーもけっこういると思う」
と語っています。
続けて、「テレビが良くないと思うのは『ドラマでやるからいいでしょ』とか。『テレビドラマでやるから漫画売れるっしょ』って思っている人もけっこういると思う」「本当にこんな悲しいことが起きて、漫画とドラマ、日本のエンターテインメントを本当に考え直さないと」
とも語っていました。
芦原妃名子さんが亡くなったことを受けて、今後他の小学館のコンテンツにも影響を及ぼすことになるか否かはまだ分かりませんが、いずれにせよ、今回このような深刻な問題に発展してしまったことを受けて、制作サイドは原作を最大限尊重することを念頭に置き、原作者としっかりとコミュニケーションを取りながら慎重に作品作りを行っていってほしいと強く願います。