一般社団法人『日本臨床薬理学会』が2日、嵐・二宮和也さん主演の医療ドラマ『ブラックペアン』(TBS系 日曜21時)の一部内容が事実と大きく異なっているとして、ドラマを制作するTBSへ送付予定の抗議文を公開しました。
『日本臨床薬理学会』側が事実と大きく異なっていると指摘しているのは、元フジレビでフリーの“カトパン”こと加藤綾子アナウンサーが演じているドラマオリジナルキャラクターの治験コーディネーター・木下香織で、ドラマに登場する治験コーディネーターは実際の職務内容と大きく異なっているとしています。
<↓の画像は、加藤綾子さん演じる治験コーディネーター・木下香織の写真>
治験コーディネーターというのは、医薬品や医療機器の製造販売にあたり行われる臨床試験「治験」を、治験責任医師らの指導のもとで治験業務に協力する職業となっており、主な業務内容は、インフォームド・コンセント(十分な情報を得た<伝えられた>上での合意)の取得補助、治験のスケジュール管理、治験患者のサポートなどがあります。
しかし、『ブラックペアン』に登場する治験コーディネーターは「まったく非なるもの」だと指摘しています。
公式ホームページを確認すると、日本外科学会外科や日本心臓血管外科学会の専門医で、イムス東京葛飾総合病院・心臓血管外科の山岸俊介医長が治験コーディネーターというのはどのような職業なのか解説しており、その中で「医療機関や製薬会社などの医療関係の企業と契約して働く方から、フリーで様々な場所で働く方まで、幅広い活躍をしています。」と説明をしているものの、実際には「製薬企業と契約するCRC(治験コーディネーター)は存在しません。」と否定し、これは「CRA」(臨床開発モニター)と呼ばれる全く別の職種を指していると思われるとしています。
<↓の画像は、『ブラックペアン』公式HP上での治験コーディネーターの解説>
また、公式ホームページ上では「ドラマの演出上、登場人物の行動は、治験コーディネーターの本来の業務とは異なるものも含まれています。」という断りが記されているものの、4月22日放送の第1話、同29日放送の第2話で描写された姿は、「医療の発展のために真摯に努力しているCRCの心を折り、侮辱するものであったと感じます。」と指摘しています。
そして、加藤綾子さん演じる治験コーディネーター・木下香織はスーツ姿で患者と接したり、二宮和也さん演じる天才外科医・渡海征司郎と高級フレンチレストランで会食、別の医師と高級懐石料理屋で食事する姿などが描かれていたのですが、「CRCは医療機関のスタッフとして患者様をサポートしており、スーツを着てかっこよくこなせる業務ではありません。担当医師を高級レストランで接待するCRCも100%おりません。」と完全否定しています。
<↓の画像は、治験コーディネーターが高級料理店で医師と食事しているシーン>
また、治験への参加に同意した患者に対して、300万円を謝礼(負担軽減費)として渡すシーンなどがあったのですが、負担軽減費は治験に参加することで生じる負担を少しでも軽減するために設けられた制度で、いくら支払うという決まりはないものの、「あくまで負担軽減費です。ほとんどのところで、一回の来院あたり、7000円〜8000円としています。患者様と付き添いの方が来院する交通費と軽い昼食代に相当する額を調査し、この額なら治験参加の誘因にならないだろうと定められた背景があります。」と説明しています。
高額な負担軽減費を支払うことによって、治験に参加するように患者を誘導することは厳しく戒められているといい、支払う金額の妥当性については治験審査委員会で審査されることから、謝礼として300万円を支払うというのは実際にはあり得ないようで、別の費用と誤解しているのではないかとのことです。
これらの点に対して、「ドラマの演出上という言葉で片付けられないと私たちは考えます。日々、患者さんに相対しているCRC達が、医師達に高額の接待を行い、人によっては高額の負担軽減費を支払っていると誤解されることはCRCを認定している学会として残念でなりません。」とし、「ドラマだから、フィクションだから、という論法もわからなくはありませんが、今回の描写は全く異業種のものであります。」「CRCの使命、現状等を正しくご認識頂き、あまりにも現実と乖離(かいり)した描写を避けて頂くよう希望する次第であります。」と訴えています。
これに対してネット上では、
- 治験コーディネーターという職種があまり知られてないのに、頑張ってる治験コーディネーターを誤解されてしまうのはイケないでしょ
- ドクターXだってあんな札束飛び交わす黒い医師ばかりでは無いと思うよ。白い巨棟も立場とか権力に固執する医師が描かれてる。でもドラマとして割りきって見てるからなぁ。その職種を厳密に描くってなると面白いドラマなんか少ないんじゃないかな。
- 新医療器具を使うとあんなに謝礼金が貰えるんだなぁーと思ってました。接待シーンとかはまぁフィクションとなんとなく思うけど、制度的なことについてはドラマとはいえ現実と大きくズレているのは問題でしょ。
- 皆よく知らない世界って、ドラマにするとき、本来の姿をそのまま書くと、意外と地味だったり華がなかったり、ドラマとしては面白くないんだよね。だから『こうであってほしい』というイメージで作っちゃうんだよ。でも、やっぱりあまりに現実とかけ離れてたり、誤解を生むような演出は当事者からすると迷惑なんだよね
- 知らない人が多い職業だけに、大きなお金が絡んでるという描写が誤解を与えるのはあると思う。単なる医療ドラマで、色んな医師を個性的に描いても、現実的でないなと分かるのは見る側が実体験で知識があってこそ。知識がなければそういうものかと思うのも仕方ない。視聴率先行で面白く描きたいドラマかもしれないが、知識不足だし、不勉強だったのでは?
- ミソは、世間にあまり知られてない職種だってことだよね。例えば、ブラックジャックみたく医師免許を持たず高額な治療費だが完璧にこなすなんて医者は現実にいないこと誰だってわかる。それはみんな医者がどういうものか知ってるから。治験コーディネーターなんて初めて聞く人ばかりだろうし、ここでそのドラマのやつが植え付けられたらそれを目指す人も少なくなるかもとは思う。
などのコメントが寄せられています。
治験という言葉を耳にしたことがある、どのようなものかを知っているという方は多いかと思われますが、治験コーディネーターという職種の存在を『ブラックペアン』で初めて知ったという方も少なくないとみられます。
そのため、いくらドラマの演出といっても実際のイメージとかけ離れすぎて描いてしまうことにより、誤ったイメージを視聴者に植え付け、それが実際の医療現場に悪影響を与えてしまう可能性もゼロでは無いため、TBS側も今回指摘された部分を修正していくことは必要なのかもしれません。
こうしたトラブルは最近も起きており、昨年1月期放送の香里奈さん主演ドラマ『嫌われる勇気』(フジテレビ系)の主人公は、「心理学の三大巨頭」の1人であるアルフレッド・アドラーの心理学理論で提唱している特徴を具現化したような人物という設定だったのですが、アドラー心理学の研究や啓発を目的に設立された『日本アドラー心理学会』側が、「一般的な理解とはかなり異なっている」「日本のアドラー心理学の啓発・普及に対して大きな妨げになると」とし、ドラマの放映中止もしくは脚本の大幅な見直しを求めて抗議文書をフジテレビへ送付しました。
その後、フジテレビ側はどのような対応を取ったのかは不明なのですが、当時のフジテレビ社長で現BSフジの亀山千広社長は定例会見で、「逆に言いますと、アドラー心理学が一般に知られることを目指していると聞いています。いずれにしても、アドラー心理学を誹謗中傷するという意図はまったくありません」とコメントし、ドラマの放送は継続していました。
テレビ離れが進んでいると言われる昨今ですが、未だにテレビの影響は大きいとされており、今回問題を指摘されている『ブラックペアン』は、初回平均視聴率13.7%、第2話は12.4%と今期トップクラスの数字を記録しており、今後も現実とかけ離れた描写をすることでドラマ全体のイメージも悪化してしまう可能性があるため、今後キャラクターが修正されていくことに期待したいところですね。